HDMIケーブルには、必ず「製造元」である「メーカー」が存在します。
世界には様々なHDMIケーブルのメーカーが存在しますが、そもそも「メーカー」とは何でしょうか?
パッケージに記載されている会社が「メーカー」になるのでしょうか?
HDMIケーブルについては、必ずしもその通りではないことが実状です。

メーカーの種類

メーカーの定義
メーカー(Maker)は、字の通り「製品を作る人や企業」を指します。

一般的に「メーカー」と聞くとその会社が「自社(自分の工場)」で製品を製造しているように思われるかもしれません。
しかしメーカーの中には「Fabless Maker(ファブレス・メーカー)」と呼ばれるメーカーも存在します。
「ファブレス・メーカー」とは、Fab(fabrication facility)を持たない、つまり工場を保有しない会社のことです。
「ファブレス・メーカー」の業態は、製造業と思われるかもしませんが基準自体はあいまいです。

ファブレス・メーカーの業態(参考例)
1.「ファブレス・メーカー」が製品の企画・開発を行い、製造のみを外部の会社へ委託する場合
2.「ファブレス・メーカー」が製品の企画を行い、開発と製造を同一もしくは異なる外部の会社へ委託する場合
3.海外から買い入れた製品に自社のJANコード(バーコード)を添付しただけの卸業者が「ファブレス・メーカー」と自称する場合

1、2、3では「メーカー」という意味合いが全く異なります。
3に至っては「製造業」ではなく「卸売業」に分類されてもおかしくありません。
事実、総務省の「日本標準産業分類」における製造業についての説明では「自らは製造を行わないで、自己の所有に属する原材料を下請工場などに支給して製品をつくらせ、これを自己の名称で販売する製造問屋は製造業とせず、大分類I-卸売業、小売業に分類される」と記されています。

総務省 日本標準産業分類(外部サイト)

しかし、JANコードの管理を行っている「一般財団法人 流通システム開発センター」では、「自ら製造を行っておらず製造を外注している事業や、自社商品を卸または小売している事業も、製造業に区分されます。」としています。

一般財団法人 流通システム開発センター(外部サイト)

2つの異なる機関が「製造業」について全く異なる見解を示しています。
定義としての「メーカー」はともかくとして、自分たちが「流通業者」ではなく「メーカー」であると訴求する企業が多いことは実状です。

しかしながら消費者であるわれわれは製品のパッケージから判断する以外に確認する術がほとんどありません。
仮に「メーカー」に問い合わせた場合、製品の原産国の開示はあったとしても製造した工場の名前まで開示する義務を持ち合わせないからです。

パッケージの記載例

HDMIケーブルのパッケージには以下のような記載がされています。

1.社名のみ記載
2.「製造元:〇〇」
3.「販売元:〇〇」
4.「発売元:〇〇」

「製造元」、「販売元」、「発売元」などの記載があれば、その会社が実際に製造しているかどうかが分かります。

しかし多くの製品のパッケージには、「社名のみ」記載されています。

HDMIケーブルという製品の特性上、製造元を明記する必要が無いため、パッケージに記載されていている会社が実際に製造しているかは判断できません

製造元、販売元、発売元の違い

まず「製造元」、「販売元」、「発売元」は、どのように違うのでしょうか?

製造元(Manufacturer)

製品を製造した会社(製造元:製造事業者)です。
通常、ケーブルを組み立てる「組立工場」や設備などを保有しています。
「製造元」が「販売元」を兼ねる場合もあり、その場合は「製造販売元」となります。
manufacturer

販売元(Distributor)

製品は「販売元」の会社とは別の会社(製造元:製造事業者)が製造します。
狭義では「販売元」は製造元である会社から販売を委託されており、名称などを変更すること無く、自社流通に載せて販売だけを担当するケースがあります。
この場合、製品を製造した会社を「製造販売元」とし、販売を担う会社を「販売元」、「代理店」、「輸入元」などと記載されています。

distributor

発売元(Developer)

製品は「発売元」の会社とは別の会社(製造元:製造事業者)が製造します。
そして別の会社(販売元:販売事業者)が販売します。
「発売元」は、製品を企画・開発し製品の権利を持ちます。
製品の開発を別の会社へ委託する場合もあり、その場合は「開発元」は別の会社になります。
developer

製造のみを別の会社に委託するなど、「発売元」と「販売元」が同じ場合もあります。
ちなみに冒頭の「ファブレス・メーカー」の多くがこれにあたります。

「社名のみ」記載されているパターン

製品のパッケージに「社名のみ」が記載されている場合、そのメーカーは「製造元」もしくは「発売元」になるものと考えられます。
そのような場合、大まかに2種類の製造方法に分かれます。

製造方法

1.自社生産
2.外部委託

いずれの方法を採用するかは、それぞれの会社の方針に委ねられますが、本業ではない事業(製品)や単価の低い製品は、外部に委託生産する動きが顕著です。
例えば、本業が家電製品の製造販売を行っており、本業外のケーブルなどの周辺製品の生産を外部に委託する場合などがこれに当たります。
製品によっては、自社で生産するよりも外部から購入したほうがメリットが大きい場合(設備、人件費、材料、生産・在庫管理)などもこれに当たります。このような場合、製品に対して関与する度合によって「OEM」、「ODM」と呼ばれます。
また、家電量販店などが自社ブランドを掲げた製品を販売する際に、製品の製造を外部へ委託する「PB(Private Brand:プライベート ブランド)」などもあります。

自社生産

「製造販売元」では、自社(もしくはグループ会社など)で製品を製造します。

メリットは、品質を管理することが出来ます。
デメリットは、生産に関わる全てを自社でまかなう必要があります。
外部委託
OEM(Original Equipment Manufacturing)

JETRO(日本貿易振興機構)では、「OEMとは、Original Equipment Manufacturingまたは Original Equipment Manufacturerの略語で、委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのこと」としています。
OEM生産では、委託者が製品の詳細設計から製作や組み立て図面にいたるまで受託者へ支給し、場合によっては技術指導も行います。

OEMの場合、委託元が技術やノウハウなどを保有します。
メリットは、委託元の企業は生産設備を保有する必要が無いため、製造コストを下げられます。
デメリットは、委託元の企業から提供した技術が流出する可能性があります。委託先の生産能力に製品の品質が左右されます。
ODM(Original Design Manufacturing)

JETROでは、「ODMとは、Original Design Manufacturingの略語で、委託者のブランドで製品を設計・生産すること」としています。
ODM生産では、製造する製品の設計から製品開発までも受託者が行います。

ODMにおいては、受託者の技術レベルが委託者と同水準、またはそれ以上の高い水準にあることが基本的な条件です。
委託元の企業はOEM同様、生産設備に加えて、開発設備についても保有する必要がありません。
メリットは、委託元の企業が製品を開発するノウハウがない場合に委託先の技術力を用いることで製品化することができます。
デメリットは、委託先の技術力・生産能力に製品の品質が左右されます。
PB(Private Brand)

プライベート・ブランドは、小売業者や流通業者など既に販売網を保有している会社などによって企画販売される製品ブランドのことをいいます。店舗を保有している会社が、製品を販売する際に店舗名などをブランドとして使用する場合「ストア・ブランド」と呼ばれる場合もあります。
世の中や業界において認知されているブランドは「ナショナル・ブランド(NB)」と呼ばれます。
プライベート・ブランドは、その対義語にあたります。

HDMIケーブル メーカーにおけるレギュレーション

HDMIのライセンスを管理する「HDMI Licensing Administrator, Inc.」では、HDMI製品を製造販売するにあたって「HDMI License」の取得を義務付けています。
このライセンスは、製造元だけではなく販売元や発売元が取得することも可能です。

サプライチェーン上のすべての会社が「HDMIライセンス」を保有する必要はありませんが、いずれかの会社が必ず保有している必要があります。

HDMI adopters(ライセンスを保有するメンバー)リスト(外部サイト:英文)

このHDMIライセンスを保有している会社は、製品を量産するにあたって「試作品」をHDMIのテストセンター(ATC)に送る必要があります。
このテストセンターでの試験の合否によって、量産が可能となります。
なお、量産後販売した製品についても別途1点あたりのロイヤリティーを「HDMI Licensing Administrator, Inc.」へ支払う必要があります。

HDMIケーブル メーカーの業態

HDMIケーブル メーカーの業態は、大きく分けて2つあります。

1.完全製造メーカー(一括生産)
2.組み立てメーカー

完全製造メーカー

HDMIケーブルのコネクターやケーブルの中の導体となる線材など全てを自社で生産するメーカーです。
full_manufacturing

組み立てメーカー

HDMIケーブルのコネクターやケーブルの中の導体となる線材などは、他社から購入し、自社では組み立てのみを行うメーカーです。
業界では、「Assembly House(組み立て工場)」と呼ばれることもあります。
assembly_house

組み立てメーカーの場合、コネクターやケーブルを外部のコネクターメーカーやケーブルメーカーなどから購入します。
HDMIのコネクターについては、「Approved Connectors(認証済みコネクター)」として「HDMI Licensing Administrator, Inc.」が管理しているリストがあります。

Approved Connector リスト(外部サイト:英文)

HDMIの認証テスト規格(CTS)1.4bにおいて、HDMI機器においてHDMIコネクターを搭載する場合、使用するコネクターがこのリストに掲載されているモデルと同一であることが定められています。
(注)「HDMI機器」についての「Approved Connectors」のため、ケーブルの場合は言及されていません。

このリストで興味深い点は、家電メーカーの記載がないことです。
家電メーカーが出資している別会社が製造している可能性も考えられますが、いずれにしても
家電メーカーに搭載されているコネクターは他社製品が使われている事になります。

家電メーカーが製造するHDMI製品(自社ブランド品)に搭載されているコネクターが他社製品を採用していることを踏まえると、販売しているケーブルについてもコネクター部分は、外部から供給されている可能性が考えられます。