HDMIケーブルは正式には「ケーブルアセンブリー(Cable Assembly)」と呼ばれます。
ケーブルアセンブリーは、末端にプラグまたはコネクターが取付けられたケーブル加工品(一般的に言う「ケーブル全体」)のことを指します。

ケーブルアセンブリーは、5つの部分から構成されます。
・2つの「コネクター(プラグ)」
・コネクターを結ぶ「ケーブル」
・コネクターとケーブルを接続する2つの「接合部分」

hdmi_cable_construct

HDMIケーブルの「コネクター」

HDMIの規格上、5種類のコネクター(プラグ、端子)が存在します。

hdmi_connectors_variation

それぞれのコネクターには、「ピン」と呼ばれる「接点」が存在します。

コネクター ピン数
Type A 19
Type B 29
Type C 19
Type D 19
Type E 19

片側のコネクターのピンと反対側のコネクターのピン同士はそれぞれケーブルを通して繋がっています。
そして一つ一つのピンには、様々な信号が伝送されます。
どのピンにどのような信号が伝送されるかは「Pin Assignment(ピンアサイン)」によって決められます。
例えば、Type A(タイプA)と呼ばれるコネクターのピンアサインは以下のように決められています。

全てのコネクターのピンアサインはこちら

hdmi_type_a_pin_assignment
ピン# HEAC非対応 HEAC対応
TMDS Data2+ TMDS Data2+
TMDS Data2 シールド TMDS Data2 シールド
TMDS Data2- TMDS Data2-
TMDS Data1+ TMDS Data1+
TMDS Data1 シールド TMDS Data1 シールド
TMDS Data1- TMDS Data1-
TMDS Data0+ TMDS Data0+
TMDS Data0 シールド TMDS Data0 シールド
TMDS Data0- TMDS Data0-
10 TMDS Clock+ TMDS Clock+
11 TMDS Clock シールド TMDS Clock シールド
12 TMDS Clock- TMDS Clock-
13 CEC CEC
14 Utility Utility, HEAC+
15 SCL SCL
16 SDA SDA
17 DDC,CEC グラウンド DDC,CEC グラウンド,HEAC シールド
18 +5V +5V
19 HPD HPD, ,HEAC-
19個のピンにはそれぞれ決められた信号が入出力されます。
HDMI機器同士をHDMIケーブルで接続して使用する(通信させる)には、この「19本」のピン同士がケーブルを介して「結線」されている必要があります。
※HEAC非対応のケーブルでは、#14ピンが非結線の製品もあります。

HDMIケーブルの「ケーブル」と「接合部分」

HDMIケーブルの規格上、ケーブル部分の内部に関する規定や接合部分についての決まりはありません。
つまり、この部分が様々なケーブルや製造元であるメーカーによって異なります。

一般的には、先程の「ピンアサイン」から通信する信号の種別を把握し、その信号に適した「線材(せんざい)」を選択します。

「線材」は、
・「導体」の素材
・「導体」の直径
・「絶縁体」の素材
・「ノイズ」対策のためのシールド
などのざまざまな要素をもとに選択されます。

そしてこれらの組み合わせが、ケーブル全体の「能力」と「価格」に大きく影響します。
この組み合わせが、「レシピ」のようなものになります。

一般的にケーブルメーカーが、HDMIケーブルのみを制作していることは極めてまれです。
HDMIケーブル自体の歴史が他のケーブルと比べてまだまだ浅いということもありますが、ほとんどのメーカーでは、HDMIが登場する前からケーブルメーカーとして、いろいろな種類のケーブルの生産に力を入れてきました。
それらの背景や経験によってそのメーカーが得意とする分野があります。
その結晶が「レシピ」となりますので、一般的に情報公開はされていません。

ケーブル

導体の素材

ケーブルの導体には、電気信号が流れるため「電気伝導率(electrical conductivity)」が高い素材が選択されます。
一般的にケーブルの導体には銅やアルミ、銀、金などの金属が使用されています。

それでは、なぜ「銅やアルミ、銀、金」などの金属が導体として選択されてるのでしょうか?

なぜ金属が導体として選ばれるのか?

小難しい話ですが、電気伝導の原理は、金属の内部に存在する「価電子(かでんし)」によって引き起こされます。

すべての物質は、最小単位である「原子(atom)」の集合体によって構成されています。
これらの原子は中心となる「原子核(atomic nucleus)」と、その周囲を常に回転している「電子(electron)」から成ります。
そして原子核は「陽子(proton)」と「中性子(neutron)」から成り立っています。
以下が、「陽子(赤)」、「中性子(黒)」、「電子(青)」のイメージ図です。
黒の線は電子が移動する軌道を表していますが、実際は定まった軌道を回っているわけではありません。

Stylised atom with three Bohr model orbits and stylised nucleus

原子核の中にある陽子はプラス、電子はマイナスの電気を帯びています(帯電状態)。
この帯電状態の物質は電荷(でんか:electric charge)を持つといい、その大きさは「クーロン:C」と呼ばれる単位によって表されます。
ちなみに中性子は電荷を持ちません。

これらの「陽子」、「電子」、「中性子」の数は、原子によって異なります。
そして電子の構成(配置や数)は、原子(たとえば金属の種類など)によって異なります。
いずれの場合においてもイメージとして原子は「電子」を幾重(1重のときもある)にもまとうような構造になります。

ようやく最初の「価電子」について説明できますが、ざっくり説明すると「価電子」は、原子がまとっている電子のうちの一番外側に存在し、かつ「不安定」な状態の「電子」のことを指します。

すべての「電子」はマイナスの電気を帯びています。
そして「価電子」は電子のうちでも「不安定」な状態のものを指します。

原子の集合体である導体に電気が通ると、導体に「自由電子」が入ってきます。
この「自由電子」が「原子」の周りを廻っている「価電子」を押し退けます。
その結果「価電子」はそれまで廻っていた軌道から離れて「自由電子」となります。
この押し退けられた「自由電子」が別の「価電子」を押し退けていく連鎖が発生します。
この電子の「入れ替わり」が連鎖的に次々に起きることで「電子の流れ」となります。

導体とは価電子が軌道を離れやすい(自由電子になりやすい)物質のことを言い、
絶縁体とは電子が軌道を離れにくい(自由電子になりにくい)物質のことを言います。

電気をよく通すことで知られている「銅やアルミ、銀、金」などの金属の原子は、それぞれ少ない抵抗力で軌道から離れることができる価電子を「1つ」持っており、強力な連鎖反応を引き起こすことが出来ます。

導体の伝導率を考える上で「オームの法則(Ohm’s Law)」は基礎となります。

オームの法則
E(電圧:V)=R(抵抗:Ω)×I(電流:A)

「オームの法則」では、導体の2点間の電位差が、その2点間に流れる電流に比例することを主張しています。
このとき比例係数として考慮すべきものが導体の「電気抵抗(electric resistance)」となります。

この「抵抗」と「伝導」は相反するものになります。
抵抗が低いとより多くの電子を伝導することができ、抵抗が高いと伝導できる電子は少なくなります。

導体が1つの物質のみで構成され、その断面積が一定かつ一定の電流が流れている場合、
その物質の抵抗率は「プイエの法則(Pouillet’s Law)」によって導き出すことが出来ます。
Resistivity geometry

プイエの法則

「R」は、物質の電気抵抗
「ℓ」は、物質の長さ
「A」は、物質の断面積

プイエの法則では、同じ物質で導体が出来ている場合、
1.導体が短い方が抵抗が小さくなる(電気を通しやすい)。
2.導体の断面積が大きい(太い)方が抵抗が小さくなる(電気を通しやすい)。
としています。

「抵抗率」は、一般的に「Ω・m」で表され、記述として「ρ」が用いられます。
※オーム(ohm、記号:Ω)
「伝導率」は、一般的に「S/m」で表され、記述として「σ」が用いられます。
※ジーメンス(siemens、記号:S)

ρはσの「逆数(σ=1/ρ)」として定義されています。

以上の観点から、導体に適した線材は以下になります。
1.物質自体の電気抵抗が低い
2.導体の長さが短い
3.導体の断面積が大きい(太い)

以下が20℃の状態におけるざまざまな物質の「電気抵抗率」と「電気伝導率」をあらわした表です。
電気抵抗は、温度によっても変化します。

物質  電気抵抗率 ρ(Ωm) 電気伝導率 σ(S/m)
Silver 1.59×10-8 6.30×107
Copper 1.68×10-8 5.96×107
Annealed Copper 焼きなまし銅 1.72×10-8 5.80×107
Gold 2.44×10-8 4.10×107
Aluminium アルミニウム 2.82×10-8 3.5×107
Calcium カルシウム 3.36×10-8 2.98×107
Tungsten タングステン 5.60×10−8 1.79×107
Zinc 亜鉛(あえん) 5.90×10−8 1.69×107
Nickel ニッケル 6.99×10−8 1.43×107
Lithium リチウム 9.28×10−8 1.08×107
Iron 9.71×10−8 1.00×107
Platinum 白金(プラチナ) 10.6×10−8 0.943×107
Tin 錫(すず) 10.9×10−8 0.917×107

電気抵抗の基準として、1913年に国際電気標準会議(IEC、International Electrotechnical Commission)によってIACS(International Annealed Copper Standard)が制定されました。
この規格によって国際的に採択された焼きなまし標準軟銅の「体積抵抗率: 1.7241×10-8 Ωm」を、「100%IACS」として規定しています。

「銅やアルミ、銀、金」が導体として選ばれる理由は、物質そのものの「電気抵抗率」が
他の物質と比較して圧倒的に低いからです。
導体の直径

導体の断面積(直径)が大きければ、より多くの電子を伝導することが出来る点についてはご理解いただけたかと思います。
次に、この「直径(断面積)」について規格があるかという点です。

ほとんどのケーブルメーカーでは、線材に使用する導体の直径の基準に「AWG(American Wire Gauge:米国ワイヤー・ゲージ規格)」を用いています。
この背景には、EIA、TIA、ANSIなど、AWGのゲージ数が指定されている規格が多々存在するため、AWGが業界基準になっていることに起因します。

ちなみにHDMIの規格上、ケーブルの導体に関してAWGのゲージ数の指定はありません。
下表がAWGの抜粋です。
抵抗値は「100%IACS」を基に算出しています。
AWG#37以上のケーブルも存在しますが、AWGのゲージ数が大きくなるほど導体の直径(断面積)は小さくなります。
AWG 直径 (mm) 断面積 (mm2) 抵抗 (Ω/km) 直径 (inch)
4/0 11.68 107.2 0.1608 0.46
3/0 10.4 85.03 0.2028 0.4096
2/0 9.266 67.43 0.2557 0.3648
0 8.251 53.48 0.3224 0.3249
1 7.348 42.41 0.4066 0.2893
2 6.544 33.63 0.5127 0.2576
3 5.827 26.67 0.6464 0.2294
4 5.189 21.15 0.8152 0.2043
5 4.621 16.77 1.028 0.1819
6 4.115 13.3 1.296 0.162
7 3.665 10.55 1.634 0.1443
8 3.264 8.366 2.061 0.1285
9 2.906 6.634 2.599 0.1144
10 2.588 5.261 3.277 0.1019
11 2.305 4.172 4.132 0.09074
12 2.053 3.309 5.211 0.08081
13 1.828 2.624 6.571 0.07196
14 1.628 2.081 8.285 0.06408
15 1.45 1.65 10.45 0.5707
16 1.291 1.309 13.17 0.05082
17 1.15 1.038 16.61 0.04526
18 1.024 0.823 20.95 0.0403
19 0.9116 0.6527 26.41 0.03589
20 0.8118 0.5176 33.31 0.03196
21 0.7229 0.4105 42 0.02846
22 0.6438 0.3255 52.96 0.02535
23 0.5733 0.2582 66.78 0.02257
24 0.5106 0.2047 84.21 0.0201
25 0.4547 0.1624 106.2 0.0179
26 0.4049 0.1288 133.9 0.01594
27 0.3606 0.1021 168.9 0.0142
28 0.3211 0.08098 212.9 0.01264
29 0.2859 0.06422 268.5 0.01126
30 0.2546 0.05093 338.5 0.01003
31 0.2268 0.04039 426.9 0.008928
32 0.2019 0.03203 538.3 0.00795
33 0.1798 0.0254 678.8 0.00708
34 0.1601 0.02014 856 0.006305
35 0.1426 0.01597 1079 0.005615
36 0.127 0.01267 1361 0.005
導体の条件

HDMIの導体において、重要な条件は冒頭の「ピン」にあります。
導体の「素材自体の抵抗が少なく」、「断面積が広い」状態が、理想的な導体であることは、ここまでの説明でご理解いただけたことと思います。
一見、導体が太ければ太いほど理想的なように感じられるかもしれませんが、HDMIのコネクターは「小型化」を推進して策定されており、そのコネクターに存在するピンは極めて小さく出来ています。
ピンのサイズはコネクタータイプによって異なりますが、コネクター自体のサイズが小さいほどピンの大きさも小さくなる傾向にあります。

タイプAのピン

hdmi_type_a_connector

タイプAのコネクターは、ピンを「1mm」間隔で配置することが仕様で決められています。
※規格上は、ピンの中心と反対側のピンの中心の間隔が「0.5mm」と定められています。
内部では、各ピンが曲げられており「レセプタクル(メス)」と確実に接触するように「バネ」のような構造になっています。
余談ですが、下段のピンの18番ピンのみが他のピンと比べて「1mm」ほど奥まった場所に配置されています。
これは、18番ピンにアサインされている「+5V」の接続(接触)が、必ず他の全てのピンの接続が終わった状態でのみ行われるようにしているからです。
タイプAでは、ピンがレセプタクルと接触する部分は「0.3mm」にすることが決められています。
タイプCのピン

hdmi_type_c_connector

タイプCのコネクターは、ピンを「0.4mm」間隔で配置することが仕様で決められています。
タイプA同様、18番ピンのみが他のピンと比べて奥まった場所に配置されています。
タイプCでは、ピンがレセプタクルと接触する部分は「0.12mm」にすることが決められています。
タイプDのピン

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タイプDのコネクターは、ピンを「0.4mm」間隔で配置することが仕様で決められています。
※規格上は、ピンの中心と反対側のピンの中心の間隔が「0.2mm」と定められています。
タイプDでは、「18番ピン」ではなく「19番ピン」のみが他のピンと比べて「0.5mm」ほど奥まった場所に配置されています。
※タイプDではピンアサインが他のコネクターとは若干異なります。
タイプDでは、ピンがレセプタクルと接触する部分は「0.2mm」にすることが決められています。
コネクターとケーブルの「接合部分」

各コネクターとケーブル部分は、人の手によって「はんだ付け」されます。
HDMI規格では、ケーブルと接続する側のコネクターの仕様の規定はありません。
様々な種類のコネクターが実際存在します。

コネクター内部の例
・ピンのみ露出しているタイプ
・PCBボードに接続されているタイプ
・ケーブル用の端子台があるタイプ
これらは、様々な要素によってメーカー側で選択(レシピのひとつ)されます。

いずれの場合においても、「0.2mm〜0.3mm」前後のピン「ひとつひとつ」に対して19本の異なるケーブルを「正確に」はんだ付けするのは、「人の手」によってなされます。
導体の種類

導体の断面積が大きければ、電気抵抗を少なくすることが出来ます。
ケーブルの導体は、大きく分けて「2種類」の構成で製作されています。

1.単線(solid wire)
2.撚り(より)線(stranded wire)
単線

1本の「導線」で構成された導体を「単線」と呼びます。

メリットは、限られたスペースに最大限の導体の「断面積」を有することが出来ます。電気抵抗を抑えることが出来るため、伝送能力に長けています。
デメリットは、導体が1本の導線で構成されているため、導体を極度に曲げてしまうと導体が変形(断面積が圧縮)してしまったり、断線してしまう可能性があります。

撚り線

複数の「導線」を束ねそれらを「ねじり合わされた」状態で構成した導体を「撚り線」と呼びます。

メリットは、単線よりも柔らかいケーブルになるため、取り回しが容易です。
デメリットは、限られたスペースしかない場合、単線と比較すると撚り線は、線同士の間に隙間が生まれてしまうため、「断面積」が小さくなります。その結果、抵抗が大きくなり、長い距離の伝送には不向きです。