サブ・サンプリングは、アナログ映像におけるYPbPr方式の映像データ、もしくはデジタル映像におけるYCbCr方式の映像データに用いられる映像データを圧縮する方法です。
正式にはクロマ・サブ・サンプリング(Chroma Sub-sampling)と呼ばれます。
一定のルールに基づいて、ピクセルの色情報を間引くことで、画質を大幅に劣化させることなくデータ量を大幅に削減することができます。

以下がサブ・サンプリングされた映像の例です。
Colorcomp

クロマ・サブ・サンプリングが用いられた背景

YPbPr、YCbCrを問わず、各ピクセルの色データはLuma(ルマ)と2種類のChroma(クロマ)によって構成されています。

デジタル映像の場合、「輝度信号(Y)」は、「明るさ」情報のことで「Luma:ルマ」と呼ばれています。
「輝度信号と青色成分の差(Cb)」と「輝度信号と赤色成分の差(Cr)」は、「明るさを除外した色」情報のことで、「Chroma:クロマ」や「色差信号」とも呼ばれています。

私たちの眼の網膜の奥には、光を感じることができる「視細胞(しさいぼう)」があります。
視細胞には、暗い光にも反応するが色を識別することができない「桿体(かんたい)細胞」と呼ばれる細胞と、明るい光にしか反応しないが色を識別できる「錐体(すいたい)細胞」と呼ばれる細胞があります。
錐体細胞は黄斑部を中心に分布し、桿体細胞は錐体細胞よりも数が多く、主に網膜の外周部分に分布しています。
参考までに人間の網膜には、平均で桿体細胞が9,200万個、錐体細胞が460万個存在するという説(1)や、桿体細胞が1億2,000万個、錐体細胞が600〜700万個存在するという説(2)があります。
いずれにしても、人間の目は「明るさ」を認識する細胞が「色彩」を認識する細胞よりもはるかに(およそ20倍)多いことがわかります。
人間は「色」よりも「光」に対して格段に敏感であることが医学的に証明されています。
参考資料(1):“Human photoreceptor topography”(英文)
参考資料(2):“The Rods and Cones of the Human Eye”(英文)

話が少し逸れましたが「YCbCr」の方式はもともと放送業界において使用されてきました。
「輝度」情報は可変することなく「色彩」の度合いをサブ・サンプリング(フィルターや平均化など)することで、人間の目の仕組みを逆手に取り、少ないデータ量で同等の映像を再現する仕組みが出来上がりました。

Chroma Sub-sampling(クロマ・サブ・サンプリング)

サブ・サンプリングを用いたデータか否かは「4:4:4」、「4:2:2」、「4:1:1」、「4:2:0」などの比率を用いて表します。
これらの数字は、ルマに対する各クロマのサブ・サンプリング(Chroma Subsampling:クロマの抽出度合)の割合を表します。
それぞれ次のような意味があります。

Chroma Subsampling Notation
4:4:4

4:4:4では、全てのピクセルが色情報を保有します。
クロマ・サブ・サンプリングが行われない状態、つまりデータが間引かれていない状態です。

YCbCr 4:4:4 の構成イメージ

YCbCr 4:4:4 における有効ピクセル(画面)内の構成イメージは下図のようになります。
全てのピクセルには、それぞれルマと各クロマが存在します。
Pixel representation of YCbCr 4:4:4 (24bit)

「4:4:4」のメリットは、各ピクセル毎に色情報を保有しているため、ピクセル毎に固有の色を出力できます。
「4:4:4」のデメリットは、各ピクセル毎に色情報を保有しているため、表示するピクセルが増えれば全体の情報量も膨大になります。
4:2:2

YCbCr 4:2:2では、全てのピクセルがルマを保有しますが、水平方向2ピクセルあたり各1つのクロマのみとなります。
水平方向にクロマ・サブ・サンプリングが行われます。

YCbCr 4:2:2 の構成イメージ

YCbCr 4:2:2 における有効ピクセル(画面)内の構成イメージは下図のようになります。
全てのピクセルには、ルマが存在します。
平行方向に並ぶ2つのピクセルでは、各クロマがシェアされます。
Pixel representation of YCbCr 4:2:2 (24bit)

「4:2:2」のメリットは、YCbCr 4:4:4 と比較して情報量を 2/3 にすることが出来ます。
「4:2:2」のデメリットは、クロマ数が少なくなったことによって、色を再現するにあたっての制限が生まれます。
YCbCr 4:2:0

YCbCr 4:2:0では、全てのピクセルが「ルマ:輝度信号(Y)」を保有しますが、水平2ピクセル、垂直2ピクセルのルマあたり各1つのクロマのみとなります。
水平、垂直方向にクロマ・サブ・サンプリングが行われます。

YCbCr 4:2:0 の構成イメージ

YCbCr 4:2:0 における有効ピクセル(画面)内の構成イメージは下図のようになります。
全てのピクセルには、ルマが存在します。
平行方向に並ぶ2つのピクセルと垂直方向に並ぶ2つのピクセル(4つのピクセル)では、各クロマがシェアされます。
Pixel representation of YCbCr 4:2:0 (24bit)

「4:2:0」のメリットは、YCbCr 4:4:4 と比較して情報量を 1/2 にすることが出来ます。
「4:2:0」のデメリットは、クロマ数がさらに少なくなったことによって、色を再現するにあたっての制限が生まれます。